日々霜

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【本】吉田修一 『最後の息子』

7月になったので、2015年上期に読んだ53冊の本の中からピックアップしておすすめしたいものを幾つか選んで紹介する的なのをやろうかなとちょっと思ったんですけど、おすすめしたかった『すべて真夜中の恋人たち』とかは、全然レビューとかではないけど一応ちょっと前の日記で書いちゃったしな~と思ってやめました。

なので、普通に、最近読んだ本で衝撃的だった一冊について簡単ですがちょっと書こうと思います。

吉田修一 『最後の息子

何故この小説を読むことになったのかってところから話すと、私が吉田修一と誕生日が同じだったからでした。

『誕生日文庫』という、自分の誕生日と関係のある一冊を集めたシリーズで、自分の誕生日を選んだ結果これだったというわけです。吉田修一は何冊か読んでいたけれど、自分と誕生日が一緒だというのは知らなかった。

表題作の「最後の息子」、田舎で酒屋を営む父とその息子兄弟を描いた「破片」、水泳部員の爽やかな青春物語「Water」の三篇を収録。

この本、背表紙に、「爽快感200%、とってもキュートな青春小説!」なんて書いてあるんですけど、

嘘吐きにもほどがある。むしろどうしてそういうまとめ方をしたのか謎です。しいていえば「Water」がそれにあたるのかな……?

ここで書くのは、表題作、「最後の息子」について。

第84回文学界新人賞受賞作品であり、吉田修一のデビュー作。デビュー作でこれを書くって、という気持ちと、いやデビュー作だからこそこれなのか、という気持ちが半々。

料理がうまくて明るいオカマの閻魔ちゃんに養われながら一緒に暮らす、所謂ひもな主人公「ぼく」。ハンディカムビデオで取った記憶の記録とともに日常を振り返っていくスタイルの小説。

まず、この小説の単純な魅力を二つあげることにする。

一つ目。登場人物一人ひとりが、濃いところ。

オカマの閻魔ちゃんは勿論、「ぼく」の幼い頃の友人であり、男なのにあだ名は「女番長」な右近、公園で殴り殺された大統領……

皆、何気ない。不自然な存在ではなく、それぞれ生活に根差したしっかりした人間であるにも関わらず、濃い。ど濃い。

もう一つは、台詞一つ一つが光るところ。

それもやっぱり、何気なく。

・会話中、主人公に「矛盾してるよ」と言われて閻魔ちゃんが返した台詞。

「あら、矛盾してるから、オカマなのよ」

・ビデオに音声だけが残っている大統領の台詞。

「俺さあ、誰かのことを好きになるだろ、そうしたら、そいつの唾が飲みたくなるんだ。だから、俺、異常なのかなぁ? でもさぁ、もしもだよ。正常な愛し方があるんなら、誰か教えて欲しいよ」

そしてこれは実際に読んで欲しいので割愛するけれど、タイトルの「最後の息子」も、閻魔ちゃんの名台詞の一部です。

がつん、と脳を揺らされるような言葉や表現を引きずりながら読むことになるのです、この小説は。

以上二点の魅力に、さらに上乗せするようにある確固としたものってのが、「何気なさ」。

この小説に出てくる人たちは、無理をしていない。自然体。だからこそ何もない話と言ってしまえるような雰囲気がある。

でも、無理はしていないけれど、皆必死。自分自身の人生に必死。自然体だからこそ、そうなっているのだと思う。

悲しさとか、幸せとか、怒りとか、寂しさとか、そういう感情を全部詰め込んだ結果、こんな自然だけれど内側にがんがん響く話ができあがったのだと思う。

それでいて「ぼく」の存在が、それをさらに引き立たせているのかも。「ぼく」を書かずして、「ぼく」の日常、そして「ぼく」自身を書き連ねてるからこそ、「何気ない」のかなー、と思った。

吉田修一って、過去に読んだものも踏まえて推測するに、人間の内側のぐりってひっくり返して広げて見せることが得意なのではないだろうか。それも、目の前にではなく、目の端に。

そして調べていたら、なんと「最後の息子」には後日談があるみたい! なので、いそいそと探そうと思います! 早めに読みたい。

純文学好きな人、可愛いオカマに興味がある人、感情の揺れ動きが自分自身ではよくわからないうちに悲しくなることがある人、なんかにおすすめしたいです。