日々霜

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香川真司へのラブレター

私はそこまでサッカーに詳しいわけじゃない。
海外サッカーから入った。Jリーグのチームを追っかけて応援したこともない。基本的に代表戦を見て、満足する。そのくらいのにわかサッカーファンだ。

スポーツ経験もなければ、その他のスポーツにハマったこともない。技術について、すごいことはわかっても、どうすごいのかを言葉であらわすことはできない。この選手はこういうタイプだ、パスがどうだ、シュートがどうだ、などなど、言うことはよくあるけれど、こいつ的外れたこと言ってるなと思われてもおかしくない。全てスポーツ音痴の感覚で語っている。
そう、ものすごく感覚的にサッカーを見ている。今も。


それでも、サッカーが好きだ。
さらにいうなら、香川真司が好きだ。
私がサッカーを試合として観ることにハマったのは海外サッカーだったが、私をサッカーにハメたのは、香川真司だった。

 

大学生のころ、あまり理由はなく、海外サッカーを見ていることがあった。オフサイドって何?とか、そんなレベルの知識で。海外サッカーは、サッカーにハマるきっかけとしては多いらしい。それこそ、漫画か?くらいのパワーやテクニックがあり、試合として単純に面白い。気付くと欧州リーグの試合を追ってみることも増えて、地上波で放送された欧州選手権もしっかり夜更かししてみて、スーパープレイと呼ばれる過去の動画集も漁るようにみた。ハマったというには十分だったと思う。

順番は逆かもしれないが、当時ドルトムントというチームで注目されている香川真司を知った。
そこで自国のサッカーについてようやく興味が湧き、日本を代表してサッカーをする香川真司を意識したのだった。とにかく、香川がボールを持つとわくわくする。当初、好きになった理由はそれだけだったと思う。

 

そして日本代表戦を見るようになってようやく、サッカーを観るのは苦しいということがわかった。
それまで海外の国同士の試合や、海外のクラブチームの試合をただただ楽しく観ていた。ドイツが好きだなあ、フランスも、チームでいうとやっぱりドルトムント推し、などなどあったが、日本が、自分の国が、国を背負ってサッカーをすることの、精神的負担が明らかに違うということを初めて自身で味わった。
正直、今も、昔も、とにかく、代表戦は胃が痛くなる。

サッカーはそういうものだ。自分がプレイしているわけでもなければ、ゲームのように自分が操作しているわけでもない。ただ、日本人であるというだけで、日本代表を応援する。普段愛国心に溢れているわけでもないし、むしろ日本の将来が正直不安になるニュースを読み、もういやだこの国、と思うことも多い。それでも、サッカーのときだけは自分でも拍子抜けするくらい素直に日本を応援してしまう。それでいて、感極まる。他人事でなくなる。点が入れば自分事のように嬉しいし、点を取られれば自分事のように悔しい。
そう思わせてくれるこの原動力自体がなんなのか、理屈では説明できないまま見ている。サッカー以外では申し訳ないことにあまりわからないんだけど、多分サッカーというかスポーツってそういうものなんだろうなと思う。

香川真司をきっかけに、スポーツからかけ離れた人間が、サッカーを見て、自分事のように興奮したり、悔しがったりするようになった。


ロシアW杯。発表された本大会のGL。対戦国を見て、あ、一戦も勝てないわ、と素で思った。しかし、「勝ってほしい」とも思ってしまう気持ちもあった。しかしそんな真っ直ぐな気持ちと胃の痛みをかき消すために、ネタ的に煽ったり、「勝つのは諦めてるけど、とりあえず良い試合みたいな」と呟いたり、他の国のサッカーを見て楽しく盛り上がったり、と気持ちに向き合うのを逃げていた。何事も捻くれている。
でも当たり前だけど、代表は誰も逃げていなかったし、本気で勝とうとしていた。そして、コロンビアに勝ち、セネガルに引き分け、さらには、世間に非難されながらも、ポーランドとの試合をやりぬくという予想もできなかった展開を見せ、ベスト16へと進んだ。

そして、昨日のベルギー戦である。
元々強豪であるベルギー。さらには今大会の他の試合でも好調であるが故に、ベルギーは私の中で優勝候補として考えていた国だった。ここまできても私はまた、向き合うのを恐がった。どうせぼろぼろに負ける、と自分に言い聞かせた。しかし、日本代表はそんな強豪ベルギー相手に対し、引けを取ることなく、素晴らしい試合をした。
結局、後数秒のところで逆転負けという惜敗。
ベルギー相手に、万々歳の内容だ。客観的な思考だとそうだ。そう思うし、言い聞かせようとした。それなのに、とんでもなく悔しい。気付いたら私は、向き合っていた。悔しい、と思ってしまうくらいに、自分自身、日本が負けたことに向き合っていた。

日本が負けるたびに、こんな気持ちになるならサッカーなんて興味を持たなければよかった、と思うことが、よくある。向き合うのが恐いのも、苦しい気持ちになりたくないからだ。

 

でも、私は昨日の深夜3時、素晴らしい香川真司をみた。
90分間フルで、ボールを取られない、良い起点を作る、それでいてディフェンスも怠らない、香川真司をみた。
正直、出場予選のとき、香川の調子が良いとは言えなかった。しかし、本大会が始まってからは香川真司らしいプレイが多く、ついには、昨日のような素晴らしい香川真司がみれた。

 

私は、昨日みたいな香川真司を待っていた。
そして、まだまだ香川真司が見たかった。

 

日本が負けるということは、このチームが観られなくなるということだ。
他の職業もそうだが、スポーツ選手には年齢という大きな壁がある。
香川がこれで終わったなんて思ってはいない。ただ、試合が終了して泣き崩れる日本代表をみた途端に、私の頭にもようやく4年という月日が駆け巡った。きっと選手一人ひとりがとっくの前から頭に過ぎっていた数字だ。諦めるわけではないけど、一つの区切りが今朝あったことは間違いない。
香川を4年後、次の大会で観れるのだろうか、なんて余計なことも考えて、試合後は涙も出た。

 

捻くれている私は、勝てるという気持ちを放棄して逃げる。自分の気持ちもひん曲げる。それでも、最後は、曲げようと思ったけど、結局向き合って苦しくなった。

 

そのくらい、香川真司が好きでよかった。今の日本代表が、好きでよかった。

 

 


感情がひん曲がらないうちに、書きなぐり。