日々霜

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どす黒いバラン

即興小説トレーニング

2015/1/13 お題:どす黒いバラン 制限時間:30分 文字数:1001字

 母がお弁当のおかずの間に入れていたあれの名前を、私は知らなかった。小学校2年生のときだったか初めてそれを見て、草なのかなと思って口に入れ、喉に詰まらせたことがある。それから母はそれをお弁当に入れなくなった、のではなく、色を塗るようになった。一つ一つ母が丁寧に墨汁に浸らせてから乾かしたそれはおどろおどろしく、流石に卑しい私にも食べるものには思えなかった。

 変わっていたのではなく、変わっていったのが母だった。母は爪を異常に短く切りそろえて、満足そうに私に見せてくる。黙って席を立ち、剛のいなくなった部屋を通り過ぎて私は自分の部屋へと戻っていこうとする。剛がいなくなったのは、母の所為ではない。それでいて誰の所為でもない。しかし、誰の所為にもしない分、誰か彼かへの無意識な意思は水滴のようにばらばらに向かっていくのは常だ。

「お姉ちゃん、ちょっと、話そう」

 背中に小さな囁きがぶつかって、消えた。母は、今でも私をこう呼ぶ。振り返って、椅子に腰かけると古びた音が鳴った。

 剛は弱かった。頭も、精神も。しかし身体だけはどんどん大きくなり、力も強くなった。私や母をぼろ雑巾のように扱っては、自分の情緒を懸命に守っていたんだと思う。

「お姉ちゃんさあ、剛のこと大事にしてたよね、いつもかばってた」

「うん。お母さんも、そうだったじゃない。二人で剛を、守っていたのよ。無我夢中で、世間から」

 そうよね、と納得するように腕をまくった。母の手には、爛れた火傷の跡がいくつも残っている。私はそれを見るといつも、世界一嫌なお揃いだ、と思う。自分の首をこするように髪をかき上げた。

でもね、と続ける。

「本当は大っ嫌いだった。憎くて憎くて、いっそ、私が殺してやればよかったって、思うの」

 私は首をかきむしりながら、母の手を必死で掴んだ。そうなの、私もそうなの、お母さん。私たちはやっと言えた気がした。

 剛はいなくなる前に、部屋に「お母さん、お姉さんごめんなさい」と書いたメモを残していった。そんなものではどうにもならないくらいに私たちは傷ついた。嫌だった。くそくらえだった。どうして私たちに頼まなかったのだろう、と思う。どうして。最後の恩返しをしてくれなかったのだろう。そうやって。

 どす黒いバランは、私たちの境目をいつの間にか影に変えて、包み込んでいた。大嫌いなことばかり、整頓されていく。

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一週間に一度、日記を書くか即興小説をやって恥覚悟で直さず投稿するか、と自分を追い詰める方式でブログ書いていきます(白目)

あまりにも時間がないときは過去の即興小説トレーニング晒したりします多分……

宣言した直後になんだけど、もういやになってきた。

なんだどす黒いバランって。