日々霜

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【本】村谷由香里『ふしぎ荘で夕食を ~幽霊、ときどき、カレーライス~』

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共通のフォロワーさんからの縁で知り合うこととなった、ゆかりさんの受賞デビュー作。距離が近いというのもおこがましいですが、ネット上で知っている方ということで、普段の読書とはまた異なった感覚で読んでいました。

というのも、そもそもの凄く正直な話、多分ゆかりさんが作者でなかったら、私はこの本を読む機会すら最初に与えられなかったと思うのです。それは普段自分が本屋さんで手に取るジャンルの本ではないからという至極単純な理由なのですが、「あるべき機会や偶然や運命があってこの本を読むことができている」ということをしみじみ考えながら読んでいました。というなげえ前置きはこれくらいに。


物語の舞台はオンボロで幽霊が出るという噂のある深山荘。そこで暮らす住人たちの、ちょっと不思議で、ちょっとホラーで、でも読み終えてしまうと全てがやさしくて、やわらかいお話。
「大学生」と「食事」の比重が大きい、と感じました。
おいしいご飯を誰かと一緒に食べること。日常が楽しく、平和であること。そしてそれが、「いつまでも終わらない」ではなく、「いつか終わる」ということ。人間が生きている上で、生活している中で、ときに何かが生まれ、ときに何かを失う。それは当然のことなんだけど、なかなか普段は意識できないことがある。特に、平和な日常においては。
災害や身近な人の死など、ときには悲しくてどうしようもないことを経て、あらためて考え込んで、「終わらない」ことなどないと知る。それが人間なのだと思います。

 

大学生って、上記の「いつまでも終わってほしくない日常がいつか終わってしまう」ことについてもっとも考える時期なんじゃないかなと思う。
子どもと大人の中間地点。子どもよりは頭が少しよくて、でもまだまだ未熟で、いつまでも友達と遊んでいたいなと思って、でも将来どうなるかなという不安もあって。
この物語は、そんな大学生たちが、日常の中にある小さくて切ないファンタジーに触れることで、考える、前に進む話なんだなあと感じながら読んでいました。

本当にすごくさりげない物語。いきいきとした登場人物たちが楽しそうにたわむれて、おいしそうなご飯を食べる。そのさりげない幸せや、その後の変化への予感も含めて、まるっとやさしい、お話だなと思います。

 

最後になりますが、私はゆかりさんの文章は本当に読みやすくて綺麗だなと、思っています。いきなりなんだ、という感じで、それもベタな褒め言葉すぎて恥ずかしいのですが、でもそれが本当にそうで、読み進めていて不快でない、手が止まることがない、というのは本を読む上で、大切なことだなとあらためて実感しました。物語も文章も、静かにさりげなく、読者に寄り添ってくれる本です。


なんか感想以外の部分が長くなり、失礼しました。
読むことができてよかったです。私が手に取ることになったゆかりさんの縁を、他にもつなぐことができたら…と思ってここに残します。是非とも皆さんも読んでみてください。