日々霜

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【本】菅野 仁『友だち幻想』

菅野 仁『友だち幻想』

タイトルに惹かれたのと、ピース又吉さんがテレビでおすすめしていたのが気になっていたので読んだ。
10年前の本なのだけど、今すごく売れているらしい。
読んでみたら、売れる要素しかなかった。未来を見据えた、現代の若者に向けた本だったんだ、これ。

私なんぞはもう若者といえないかもしれないけど、共感の嵐。

 

この本、筆者があとがきにも書いてらっしゃるけど、「友だちなんて無駄、友だち作るなんて幻想」という本ではありません。全く。

「みんな仲良く」「自分の全てを理解してくれる人がいる」というのが幻想で、
そんな幻想を信じるより、「合わない人はいる」「自分と全く同じ人なんていない」と考えよう。人生には合わない人とも付き合っていかなくてはいけない状況はあるんだから、自分とは違う人の異質性をきちんと受け止め、適度な距離感を持って接していこうね、というお話。

 

こうしてまとめてみると至極当たり前なことなんだけど、それを適度な分量で、適度な深さで流れを持って書いてくださっている。感覚としては、ツイッターとかでたまにバズっている共感を生むツイート群に近いのかもしれない。
全く難しいことは書いていないけど、「あ~~わかる~~~」とひたすら頷けるし、それこそ今、「みんな仲良く」で悩んで生き辛さを感じていて、突破口が見つけ出せずにいる若い世代が読むべき本なのかなあと感じた。


内容の中で特に印象的だったのが、コミュニケーション阻害語というもの。
最近流行りの若者言葉(本が書かれた2008年当初の、ですが今にも通じます)についてのことなんですが、例として「ムカつく」「うざい」という言葉。これらは、自身の感情をぶつけ、一刀両断して相手とのコミュニケーションを拒絶する力があります。これは、「相手が自分とは違う」ということを少しも受け止めることなく、排除しているところに問題がある。その他にあげられた「ていうか」「空気読めない」なども同様で、コミュニケーションをよりとりづらくしてしまうと同時に、言葉を必死で考えて感情を表現する力も薄めてしまうといったことが書いてあって、読みながらすごく唸りました。

 

特に後半の、言葉を必死で考えて感情を表現する力という点が、ものっすごい胸に刺さります。何事に対しても言葉を必死で考えて感情を表現、したいよね。したい。したくない? できないとき悔しいんだけど! 「エモい」で片付けちゃうとき実はわりと悔しいんだけど!!

 

乱れました。

後、「自分が気に入らない」ことを、特に理由なく相手にぶつける人って、本当に凄くいっぱいいる気がする。私自身、過去にもそういう内容をよくブログに書いているので、もう、普段から考えすぎているくらいに考えていることでした。何事も、みんな考え方や捉え方が違うということを、忘れがちなんだよなと日々思いまくっていて、そういう話だけをつまみに飲み会ができるくらいには多分考えていると思います。

だからこそ自分自身としても、何かを語るときはしっかり考えなくてはいけないなと思う。世の中には他者がいる、異質があるということを。

 

そういった他者性、異質性というやつに関して、最近、ドラゴンボールを批判するために読んだっていう人がいて色々話題になっていたときも、感じたことがありました。

liginc.co.jp

ツイッターで色々書いたけれど、まず前提がまずいですよね。
ドラゴンボールを読ませた先輩は「勉強になるから」という理由を一応暗に示してはいるけど、何より「読んだことがないなんてありえない!」と強引に読むことが絶対だという押し付け方をしているし、記事を書いた側は「とにかく読め」と押し付けられたということから感情がすでに否定的になった状態で「批判するために」読み進めちゃっているし。そもそも分かり合えないという以前に、読むまでのコミュニケーション不足が目立つお話だなあと感じました。
それこそ、お互い自分とは違う考え方の相手がいるという意識が足りていなかった故にすれ違ったのではないでしょうか。

(もちろん、記事上でしか読んでおらず、実際の状況はわからない上で思うことですが)

 

私は「ドラゴンボールを批判するなんて!」とは思わないし、ドラゴンボールに限らず、全ての作品において肯定・否定、様々な意見がむしろあってほしいと思っています。むしろ「誰だってドラゴンボールが好きなはず」という考え方は危険だし、それこそ自分以外の人のことを考えられていません。

だから否定であっても肯定であっても、自分とは違う意見のある人がいることも視野に入れた方がいいんじゃないかなと考えます。もし本当に「ただただ気に入らない」と思うんだったら、それを最初にちゃんと主張した方が読んでいる方もスムーズに読めるんじゃないだろうか。ちなみにドラゴンボールの記事の人は、理由をちゃんと書いているわけですが、その理由の内容も含めて批判が来たのもあると思うのでそれはそれで仕方ないと思う。


私見にせよ何にせよ、理由ってとにかくあることが大事。理由もなく批判するっていうのは、何より読み物・意見として面白くもなんともない気がする。いや、受け手の立場に限らず、発信する側としてもそうなんじゃないんだろうかと思う。私だったら、何かについてコメントを述べるとき、「うざい」「ムカつく」だけで終わらせるならわざわざ書かなくてもいいんじゃないかって思います。批判するんだったら自分の中で批判する理由をちゃんと形にしてからじゃないと批判できないし、それが批判する者のルールだと自分の中で考えている節があります。もちろん自分の中でだけで、そう考えない人もいて…となるとそれこそ堂々巡りしてしまうんですけど。


本からちょっと話題が反れてしまったけれど、とにかくそういう、日常でよく出会ったり目にしたりする人間関係のトラブルとか、ネットにおける炎上とかの背景も含んで書かれている、10年前の本なのに非常に今に通ずる、興味深い一冊でしたというまとめです。引っ張っといてこの単純なまとめ…。

 

全然関係ないんですが、討論会や合評会みたいな話し合いの場って面白いと思います。中には自分や自分の好きなものに対する批判的な意見なんて聞きたくないって言う人もいると思いますが、相手が「お前はおかしい」と人格否定するようなことを言わない限りは、わかりあえないことがわかるし、自分の感情や意見を言葉としてアウトプットする練習にもなるし、それを好きな自分にとってすんごい収穫あるんじゃないかなあと、感じます。